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児童の権利条約と退去強制の関係

1.3条[児童の最善の利益の考慮]1項

(1)3条1項条文
 「児童に関するすべての措置をとるに当たっては、公的若しくは私的な社会福祉施設、裁判所、行政当局又は立法機関のいずれによって行われるものであっても、児童の最善の利益が主として考慮されるものとする。」
(2)「児童の最善の利益」の原則が児童に関する全ての処分に適用されるのかという問題について
 在留に関する処分を除外している規定はありません。

2.日本政府による9条[親からの分離の禁止・その例外]1項に関する解釈宣言

(1)9条1項条文
 「締約国は、児童がその父母の意思に反してその父母から分離されないことを確保する。ただし、権限のある当局が司法の審査に従うことを条件として適用のある法律及び手続に従いその分離が児童の最善の利益のために必要であると決定する場合は、この限りでない。このような決定は、父母が児童を虐待し若しくは放置する場合又は父母が別居しており児童の居住地を決定しなければならない場合のような特定の場合において必要となることがある。」
(2)日本政府による9条1項に関する解釈宣言
 「日本国政府は、児童の権利に関する条約第9条1項は、出入国管理法に基づく退去強制の結果として児童が父母から分離される場合に適用されるものではないと解釈するものであることを宣言する。」
(3)日本政府による解釈宣言の理由
①本項が締約国に対して義務づけているのは、「児童が、その父母の意思に反して父母から分離されないことを確保する」ことである。
②本条4項は、国が「父母の一方若しくは双方又は児童」に対し「抑留、拘禁、追放、退去強制」等の措置をとりうることを認めている。
③しかし、第4項の理由に基づいて児童と父母とが分離される結果となることが、第1項に違反しない旨は明記されていない。
④したがって、将来、この点の解釈を巡って問題が生じることがないよう、日本政府としての解釈を明らかにしておく必要がある。

3.日本政府による10条[家族再会]1項に関する解釈宣言

(1)10条1項条文
 「前条1の規定に基づく締約国の義務に従い、家族の再統合を目的とする児童又はその父母による締約国への入国又は締約国からの出国の申請については、締約国が積極的、人道的かつ迅速な方法で取り扱う。締約国は、更に、その申請の提出が申請者及びその家族の構成員に悪影響を及ぼさないことを確保する。」
(2)日本政府による10条1項に関する解釈宣言
 「日本政府は、更に、児童の権利に関する条約第10条1項に規定される家族の再統合を目的とする締約国への入国または締約国からの出国の申請を『積極的、人道的かつ迅速な方法』で取り扱うとの義務は、そのような申請の結果に影響を与えるものではないと解釈するものであることを宣言する。」
(3)日本政府による解釈宣言の理由
①本項の「積極的」とは、出入国の申請を原則的に拒否するような「消極的」な取扱いを禁ずる趣旨である。
②本項の「人道的」とは、出入国の申請の受理に始まる手続において、人道的な配慮が必要と認められる場合には、そのような考慮を払うべきだとの趣旨である。
③本項の「迅速な」とは、手続がいたずらに遅延しないよう、取扱いを適正に行うとの趣旨である。
④したがって、本項は、全体として、出入国審査の「過程」を問題としており、審査の「結果」を予断したり拘束したりするものではない。
⑤しかし、現在の文言からは、そのことが必ずしも明らかでないため、将来、この点の解釈を巡って問題が生じることがないよう、日本政府としての解釈を明らかにしておく必要がある。

4.日本政府の見解と児童の権利委員会の見解の相違

(1)日本政府の見解
 「児童の権利条約は、法務大臣が有する、外国人の在留に関する裁量権の行使に影響を与えない。同条約により退去強制処分は制約されない。同条約3条1項に規定する『児童の最善の利益』については、在留制度の枠内において主として考慮される。」という見解です。
(2)児童の権利委員会の見解
 上記の解釈宣言を撤回するよう、1998年と2004年の「最終見解」の冒頭において繰り返し強く求めています。「『児童の最善の利益』の原則は、外国人の子どもの在留に関する処分にも適用される。」という見解です。

5.「児童の最善の利益」と退去強制処分との関係に言及した判決の差異

(1)東京地裁平成15年9月19日判決(判例時報1836号46頁):イラン人家族アミネ事件一審判決
 「特に、2歳のときに来日し、10年以上を日本で過ごした原告長女は、上記のとおり、その生活様式や思考過程、趣向等が完全に日本と同化しているものであり、イランの生活様式等が日本の生活様式等と著しく乖離していることを考慮すれば、それは単に文化の違いに苦しむといった程度のものにとどまらず、原告長女のこれまで築き上げてきた人格や価値観等を根底から覆すものというべきであり、それは、本人の努力や周囲の協力等のみで克服しきれるものでないことが容易に推認される。原告長女は、現在日本の中学で勉学に励み、日本の生徒と遜色のない成績を修めているが、イランに帰国した場合には、在学を維持することすら相当な困難が伴い、就職等に際しても、日本で培われた価値観がマイナスに作用することが十分考えられる。原告次女については、原告長女よりは年少であり、相対的には適応の可能性が高いと見ることもできるであろうが、それが容易でないことも明らかというべきである。この点において、N証人の日本で生まれたり日本で育ったイスラム教徒の子どもが、イスラムに帰ると言うことは死ねと言うに等しいという趣旨の証言は、十分傾聴に値するものというべきである。前記の子どもの権利条約3条の内容にかんがみれば、この点は、退去強制令書の発付に当たり重視されるべき事情であるといえる。以上によれば、退去強制令書の発付及びその執行がされた場合には、原告ら家族の生活は大きな変化が生じることが予想され、特に原告長女の生じる負担は想像を絶するものであり、これらの事態は、人道に反するものとの評価をすることも十分可能である。」
(2)東京高裁平成16年3月30日判決(訟務月報51巻2号511頁):イラン人家族アミネ事件二審判決、一審判決取消
 「憲法上、外国人が我が国に在留を求める権利は保障されていないものと解すべきであり、外国人の我が国への在留の許否については、国際慣習法上、国家が裁量により決定しうるものとされている。また、児童の権利に関する条約も、9条4項において、父母の一方又は双方と児童との分離が、『締約国がとった父母の一方若しくは双方又は児童の抑留、拘禁、追放、退去強制、死亡等のいずれかの措置に基づく場合には、当該締約国は、要請に応じ、父母、児童又は適当な場合には家族の他の構成員に対し、家族のうち不在となっている者の所在に関する重要な情報を提供する。』と規定していることに照らせば、法に基づく退去強制の結果として、児童が父母から分離されることをも予定しており、同条約の規定する児童の『最善の利益』が、在留制度の枠内において図られることが前提とされているというべきである。以上の点にかんがみれば、児童の権利に関する条約3条1項に規定する『児童の最善の利益』については、在留制度の枠内において主として考慮されるものというべきものであって、本件各裁決が被控訴人長女及び同二女の『最善の利益』を考慮しないことを理由として違法であるとする被控訴人らの主張は、採用できない。」

6.児童の権利委員会による好意的留意(1998年と2004年「最終見解」冒頭)

 日本国籍の児童を養育する外国籍の母親の在留資格に関して、退去強制による親子分離を避けるために、一定の条件のもとで「定住者」への変更を認めたこと(1996年7月30日付法務省通達)が挙げられました。

【参考文献】

・宮川成雄編著『外国人法とローヤリング』学陽書房、2005年
・波多野里望著『逐条解説 児童の権利条約[改訂版]』有斐閣、2005年

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