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在留特別許可の法的性質(東京高裁平成21年3月5日判決)

1.当事者

・原告=被控訴人:ガーナ共和国国籍を有する者
・被告=控訴人:国(代表者 法務大臣)
・処分行政庁:東京入国管理局長
・処分行政庁:東京入国管理局主任審査官
・原審:東京地裁平成20年2月29日判決(平成19(行ウ)227 最高裁HP)

2.判示事項

(1) 「在留特別許可の義務付けを求める訴えの性質」
(2) 「日本国籍を有する女性と約16年間にわたる共同生活を続けたガーナ共和国国籍を有する男性がした出入国管理及び難民認定法49条1項に基づく異議の申出を棄却し、在留特別許可を付与しなかった法務大臣から権限の委任を受けた入国管理局長がした裁決が、適法とされた事例」

3.事案の概要

 「被控訴人は、ガーナ共和国(以下『ガーナ』という。)国籍を有する者であるが、被控訴人が本邦に不法残留したことに基づく退去強制手続において、法務大臣の権限の委任を受けた東京入国管理局長(以下『東京入管局長』という。また、東京入国管理局を『東京入管』という。)から、出入国管理及び難民認定法(以下『法』という。)49条1項に基づく異議の申出が理由がない旨の平成18年11月7日付けの裁決(以下『本件裁決』という。)を受け、東京入管主任審査官から平成18年11月7日付けの退去強制令書発付処分(以下『本件退令発付処分』という。)を受けたことについて、本件裁決及びこれに伴ってされた在留特別許可をしない決定には、被控訴人が日本人女性と内縁関係にあることなどの事情を看過して裁量権を逸脱、濫用した違法があり、本件裁決を前提とする本件退令発付処分も違法であると主張し、控訴人に対し、本件裁決、在留特別許可をしない決定及び本件退令発付処分の取消しを求めるとともに、在留資格を『日本人の配偶者等』とし、在留期間を『3年』とする在留特別許可の義務付けを求める。原判決は、(1) 東京入管局長の在留特別許可をしない決定の取消しを求める訴えは、不適法であるとしてこれを却下し(原判決主文第1項)、(2) 本件裁決は、裁量権の逸脱・濫用をした違法な裁決であるとしてこれを取り消し(原判決主文第2項)、(3) 本件退令発付処分は、根拠を欠く違法な処分であるとしてこれを取り消し(原判決主文第3項)、(4) 東京入管局長に対し、被控訴人の在留を特別に許可することを命じた(原判決主文第4項)が、被控訴人のその余の請求(在留特別許可に付すべき条件を指定する部分)を棄却した(原判決主文第5項)。控訴人は、原判決中の敗訴部分を不服として控訴を申し立てた」。

4.判旨

◇ 在留特別許可の義務付けを求める訴えの適法性について
(1) 「憲法上、外国人は、わが国に入国する自由を保障されているものでないことはもちろん、在留の権利ないし引き続き在留することを要求しうる権利を保障されているものでもないと解するのが相当である(最高裁昭和50年(行ツ)第120号同53年10月4日大法廷判決・民集32巻7号1223頁参照)」。
(2) 「在留特別許可は、退去強制事由が認められ退去させられるべき外国人について、特別に在留を許可すべき事情があると認めるときに、法務大臣等が恩恵的処置として日本に在留することを特別に許可するものであると解されるから、法24条に該当する外国人には、自己を本邦に在留させることを法務大臣に求める権利はないというべきであり、法49条1項所定の異議の申出は、たとい、在留特別許可を求める旨が明らかにされている場合であっても、行政事件訴訟法3条6項2号所定の『行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求』には当たらないものと解される。したがって、在留特別許可をすることの義務付けを求める訴えは、同項1号所定の義務付けの訴えであると解するのが相当である」。
(3) 「法務大臣等が在留特別許可をすべきであるにもかかわらず、これがされないとして在留特別許可をすることを義務付けることを求める訴えは、在留特別許可がされずに、法49条1項に基づく異議の申出には理由がない旨の裁決がされたときに、裁量権の逸脱又は濫用があるか否かを争点とするものであり、その裁決を受けた外国人は、当該裁決の取消しの訴えを提起し、在留特別許可がされないことに裁量権の逸脱又は濫用があるとしてこれが認容されれば、行政事件訴訟法33条により、法務大臣等は、取消判決の主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断に拘束されることになるから(最高裁昭和63年(行ツ)第10号平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁参照)、その勝訴判決の後に改めて行われる法務大臣等の裁決により、本邦における在留資格を取得するという目的を達成することができるもので、同法37条の2第1項所定の『一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあり、かつ、その損害を避けるため他に適当な方法がないとき』に当たらない」。
 「被控訴人には、行政事件訴訟法37条の2第1項所定の『一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあり、かつ、その損害を避けるため他に適当な方法がないとき』という訴えの適法要件である補充性の要件を欠くから、本件義務付けの訴えは、不適法な訴えとして却下を免れない」。
◇ 東京入管局長の判断に裁量権の逸脱、濫用があるか否かについて
(1) 「法は、24条に列挙されている退去強制事由に該当する者を類型的にみてわが国社会に滞在させることが好ましくない外国人であるとして、退去強制手続の対象とすることを予定している」。
 「在留特別許可は、法務大臣等が恩恵的処置として例外的に付与する許可であるから、在留特別許可を付与するかどうかは、法の目的とする出入国管理及び在留の規制の適正円滑な遂行というその制度目的実現の観点から、当該外国人の在留中の一切の行状、特別に在留を求める理由等の個人的な事情ばかりではなく、国内の政治・経済・社会等の諸般の事情及び国際情勢、外交関係等の諸般の事情を総合的に考慮して行われなければならないものであって、その要件の判断は、法務大臣等の広範な裁量を前提としている」。
(2) 「『法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき』に該当しないとの判断が違法となるのは、その判断が法務大臣の裁量権の行使としてされたものであることを前提として、裁量判断の基礎とした重要な事実の誤認により当該事情を看過した場合又は事実に関する評価が合理性を欠くこと等により当該事情がないとした判断が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くものであることが明らかであると認められる場合であるというべきである(最高裁昭和50年(行ツ)第120号同53年10月4日大法廷判決・民集32巻7号1223頁参照)」。
 「法務大臣等がする在留特別許可を付与するかどうかの判断において、当該退去強制事由に係る違反行為の具体的態様等を検討することを要することは当然であり、また、当該外国人が、それまで日本社会において、健全な市民として平穏で安定した生活を送ってきたこと及び将来においても日本社会において健全な市民として平穏で安定した生活を送ることができる蓋然性が高いことは、最低限満たす必要がある」。
(3) 本件についての検討
エ 「被控訴人の上記のような生活関係は、昭和63年6月10日の在留期限を越えて不法に日本に残留したことによる、18年間を超える長期の不法残留という違法行為によって築かれたものであり、そのこと自体が退去強制事由(法24条4号ロ)に該当し、被控訴人が在留期間経過後も不法に就労していた行為は、外国人の就労活動が制限されているわが国の在留資格制度(法7条1項2号、19条1項等)を乱す行為であって、その違法性は顕著である。しかも、その間、被控訴人は、平成11年初めころ、勤務先が入国管理当局に摘発された際には、不法残留であることを隠すため、日本人と婚姻して在留資格を持っている友人の経歴を自分の経歴のように話して入国管理当局を欺いて摘発を免れ、平成18年8月下旬に捕まった際にも他人になりすまして警察官を欺いて罪を免れていたものであって、全ての人の本邦における出入国の公正な管理を図るという入国管理行政の適正な執行を著しく阻害したもので、違法性の程度は重にしてかつ大である」。
 「被控訴人は、外国人登録法3条1項に定められた新規登録申請義務違反の罪を犯していたものであり、これは、本邦に在留する外国人の登録を実施することによって外国人の居住関係及び身分関係を明確ならしめ、もって在留外国人の公正な管理に資することを目的とする外国人登録法の目的を達成するために、上陸後90日以内に新規登録をすることを義務付けた刑罰法規に違反するもので、この点も、被控訴人に対し在留特別許可を付与するかどうかの判断において、斟酌されることも当然のことである」。
 「東京入管局長は、判断時までに現れた上記の諸般の事情を考慮した上で、被控訴人に対し在留特別許可を付与しないとの判断をしたものであり、このような判断に至る経緯、判断当時判明していた事実関係等に照らして、東京入管局長がした上記判断が、事実的基礎を欠くものであるか又は社会通念上著しく妥当性を欠くものであるとは認められない」。
 被控訴人とAとの関係は、「在留特別許可を付与するかどうかの判断において、一つの事情とはいえても、特に考慮すべき事情とまではいえず、両名の関係を考慮に入れても、東京入管局長がした判断に、事実的基礎を欠くものであるか又は社会通念上著しく妥当性を欠くものであるとは認められず、東京入管局長に委ねられた裁量権の範囲を逸脱し又はその濫用があったものとは認められない」。
オ 「被控訴人の主張のガイドラインには、被控訴人も自認するとおり法規範性がないし、在留特別許可は、上記ガイドラインにも記載されているとおり、法務大臣等が個々の事案ごとに、当該外国人の在留を希望する理由、家族状況、生活状況、素行、内外の諸情勢、人道的な配慮の必要性等の諸般の事情を総合的に勘案して行うものであり、在留特別許可の基準といわれるものはないから、被控訴人に上記ガイドラインに記載された積極要素があるからといって、直ちに被控訴人に在留特別許可を付与しないことが違法とはいえない」。
 (在留特別許可に係るガイドライン(2009年07月改訂)及び在留特別許可に係る判例②参照)
 「被控訴人は、本件裁決時にはAとの婚姻関係にあったものではないのであるから、被控訴人が指摘する平成15年許可の(事例8),平成17年許可の(事例1)及び(事例9)並びに平成18年許可の(事例4),(事例5),(事例18)及び(事例23)とは事案を異にし、平成18年許可の(事例19)は、『定住者』で正規在留中の日系三世の女性との婚姻届の意思があったが書類の不備により届け出には至らなかったという点では被控訴人と類似しているが、同女性との間に子が出生している事案であり、また、法違反以外に法令違反の事実のない事案で、子が出生しておらず、法違反以外に外国人登録法違反の罪を犯している被控訴人とは結局事案を異にするというべきである」。
◇ 本件裁決及び本件退令発付処分の適法性について
 「本件裁決には、裁量権を逸脱、濫用した違法な点があるとはいえないし、退去強制令書は、法49条1項の異議の申出に理由がない旨の法務大臣の裁決を前提として発付されるものであるところ、本件裁決に裁量権の逸脱、濫用等の違法な点があると認めることができないし、本件退令発付処分固有の違法性を認めるに足りる証拠もないから、いずれも適法であって上記各処分の取消しを求める被控訴人の各請求は理由がない」。

【引用資料】

・東京高裁平成21年3月5日判決(平成20(行コ)146)裁判所ホームページ

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